今回は一番楽なルートのはずだった・・・
鳩待峠から至仏山山頂までエリアマップでは約2時間30分。
朝7時から登り始めれば遅くても10時には登頂し、下りはもっと早いだろうから、楽勝で山の鼻まで行けるだろう、そう考えて今回のコースに踏み切った。
本当は、最初に山の鼻まで降りてテントを張り、それから山の鼻から至仏山山頂までの直登ルートで登り、鳩待峠経由で山の鼻に戻るコースを最初に考えていた。
しかし今回は無理をせずに一番楽なコースを選ぶことにした。
ところが登ってみると、計画通りにはいかなかった。
鳩待峠を6時30分に出発し、悪沢岳に着いたのが8時30分だった。そこから25分で小至仏山に着くはずが45分かかり、結局至仏山頂上に到着したのは11時だった。
オヤマ沢で給水をして、悪沢岳を回り込んで正面に小至仏山の山頂が見えたときは誰もがゴールと錯覚した。ゴールはその後ろとわかった瞬間、みんなのテンションが下がり始め、足が痛い・・・、疲れた・・・、後何分・・・が連発した。
小至仏山からゴール地点の至仏山までは、エリアマップで45分だが、実際には1時間15分かかり、11時に至仏山山頂に到着した。
はじめはガスっていて景色がよくわからなかったが、時々ガスが切れるとその合間から壮大で芸術的な景観が現れた。ここちよい疲労感とこの感動的な景色が興奮感を刺激した。
至仏山から見て東側に尾瀬ケ原、西側に楢また湖がそれぞれ光って見えた。
楢また湖から至仏山頂上直下までつながる沢がある。楢また川の分流の狩り小屋沢だ。昔、カヌーで楢また湖を渡り、楢また川を遡って狩り小屋沢を詰め至仏山山頂に登った事がある。あの時の感動が忘れられない。途中かもしかとにらめっこしたり、ヘビやサンショウウオがいたり、また一カ所だけロープを使わなければならならい難所もあったが、とても楽しくかつ充実感を味わった。
また、小学校を卒業した春、スキーで尾瀬から湯の小屋に向かう2人組に着いて行き、葉留日の山荘まで行ったことがある。至仏山から湯の小屋まではエリアマップで約5時間30分かかり、悪沢から12kmのロングコースだ。
今回子供達みんなと至仏山に登り、そこから楢また湖を眺めた時、湯の小屋から尾瀬というこのスケールを自分のフィールドにしたい、改めてそう思った。
この山々や沢達を自由に駆け巡る事ができたらどんなに楽しいだろう・・・夢が膨らんだ。
少し予定より時間はかかったが、頂上で行動食を食べて11時30分に下山を始めた。この後鳩待峠から山の鼻のキャンプサイトまで大荷物を持って移動しなければならない。そのことがずっと気になっていた。
下りは順調とはいえ、3時間半かかって鳩待峠に降りて来た。
少し休んでデポした荷物をとりに行った時、本当にこの大荷物を持って山の鼻までいけるか、という不安と迷いが心の中に生じた。
子供達のいい感じで疲労していた。
ここで断念するかといっても、車で迎えに来てもらうにも片道2時間半かかり、一番近いキャンプサイトの山の鼻まで行くしか選択肢はなかった。
踏ん切りをつけるのに30分、思い切って重い荷物を背負い、3時に鳩待峠を出発した。子供達も重いだろうが、自分の荷物も尋常じゃない重さだった。久々にこんな重い荷物を背負った。普段はどんなに重くても自分のひざに一度ザックを置いてそこからストラップを片側の肩に通して背中に背負うが、今回は重すぎてそれも出来なかった。
不安がよぎったが覚悟を決めた。
子供達に15分歩いたら休もうと声をかけたが、自分の体が15分しか保たなかった。鳩待峠から山の鼻までは距離にして3.3km、エリアマップではちょうど1時間だった。15分に1回休憩すれば4回の休憩でゴールまで行けると子供達にも自分にもそう言い聞かせた。
人間追い込まれると、サバイバルモードに切り変わる瞬間がある。今回もいつしか切り替わり、子供達も文句を言わずに黙々と歩き始めた。何とも言えないいい顔をしていた。
だめと思ってからのそこ力って、人間はそうとうの力を持っていると再認識した。今回こんなに追い込んでしまったことはほめられることではないが、子供達のサバイバルモード、本気モードのスイッチを入れる事ができたことは、ある意味で良かったと思う。
きっと未曾有の災害とかって、文句なしに一瞬にしてこういう状況に追い込まれるだろうから、時々はこういう自分のサバイバルモードのスイッチを入れて、慣れておく事はいい事かもしれない、子供達の顔を見ながらそう思った。
ようやく山の鼻のキャンプサイトに到着。あれだけ疲れていたはずの子供達が、ゴールを目の前に見つけた時、重い荷物を持ったまま走り出した。なんだ、まだまだ元気じゃん。
こういう気持ちのときは集中力が高まり、周りもよく見えるのか、テント作りもみなで協力して一瞬で終わった。スタッフが夕食を作っている間、子供達は大声で鬼ごっこを始めた。
夕べは夜行バス、そして一日中これだけ動いたので、夕食後あっと言う間に爆睡に入った。
前回の大島キャンプでホームシックになった子が「今回泣いている暇がない」と言ったのには笑った。
翌日早朝5時から子供達は起きだし、外に出て遊び始めた。早朝の尾瀬ケ原はとてもきれい。こんな素敵な場所で朝から遊べるなんてなんて贅沢なんだろう。
さて帰りは昨日下った3.3kmの道のりを今度は登らなければならない。
子供達の昨日の疲労は完全に回復していた。誰一人遅れることなく、10時に出発をして11時30分に鳩待峠に着いた。迎えを待つ間、子供達はペットボトルをボールに見立ててサッカーやラグビーをやり始めた。これが子どもだ。
3日目は楢また湖でカヌーツアーと楢また川で沢遊び。
車でカヌーを運んでいる間、時間がもったいないので子供達は歩いて移動することにした。昨日まであれだけ歩いたので、身軽に歩くのは子供達にとって楽勝になっていた。いい兆候、すこし逞しくなったようだ。
楢また湖にカヌーを浮かべしばらくすると正面に一昨日登った小至仏山と至仏山、そしてとなりにニセ笠、傘岳が遠く高いところにあった。
みんなあの山に登ったんだぞ、何度も子供達に訴えたが、あまり反応はなかった。これが子どもだ。いつかそのすごさがわかってくれればそれでいい。
カヌーを漕ぎ始めて約1時間で楢また川に到着。今年は大雨の影響で、河口に土砂が堆積し、河口までカヌーで行くことができなかった。そのぶん、浅瀬ができて魚もたくさん見る事ができた。
カヌーツアーならここでご飯を食べて帰るところだが、バディは違う。ウエットスーツを着てヘルメットをかぶり、フル装備で沢に向かった。天然スライダーを求めて沢を遡った。透き通る水の中でダイナミックに思う存分楽しんだ。
沢遊びは創造力とスキルを鍛えることができる。ここの流れで遊べば楽しい、ここは危ない、この岩に登りたい・・・と創造力とスキルがあれば遊びは無限大に広がる。だから楽しい。
今度は魚とりとシャワークライミングに挑戦しよう。
今回のキャンプは片品道の土砂崩れの影響で2日目のブナの森のキャンプ場でキャンプをすることができず、初日をのぞく2日間は葉留日野山荘別館、湯の小屋楽舎に泊まった。本当はもっとテントに泊まりたかったが、その分、火起こしや飯盒の炊き方などをじっくり学ぶことができた。
今回高学年は東北でキャンプをしている。被災地を自分の目で見て、自分に何ができるのか、自分がこれからどういきていくのか、そんなことを考えるきっかけになっているのだろう。
被災地でなくとも、こうしたキャンプ生活をしていると、万一自分が大きな災害に巻き込まれたとしても、こうした経験を積んでいるのといないのとでは大きな違いがあると思う。
今飯盒の炊き方を覚えていなくても、繰り返し繰り返し見たり聞いたりしていれば、多少失敗したとしてもそのうち道具さえあれば出来るようになると思う。
また、今回大分子供達がうんちを出せるようになったと思う。出なくても出す努力ができるようになった。たいがい子供達は日常生活を離れるとうんちが出なくなってしまう。
この食べること、出すことが何より生きる基本であり、どんな環境、どんな状況でもこれさえできれば逞しく生きて行くことができるだろう。
一回きりのキャンプ体験で満足する事無く、何回も繰り返し、刷り込んで行くことが大事なんだということをぜひご理解いただきたい。
これからは災害だけでなく、エネルギーの問題にも立ち向かわなければならない。エネルギー問題はいくら代替えしても消費量そのものを減らさなければ根本的な解決にならない。エネルギー消費量を減らすということは、暑さや寒さ我慢したり、電車や車に乗らずに自転車や徒歩で移動したりと便利な生活から不便な生活にシフトしていくことです。そのためには人間側が「我慢」「忍耐」「辛抱」する意外に方法はありません。
日常生活で、子供達はほとんど我慢や忍耐、辛抱など経験する機会が無いのではないでしょうか。そういう意味では今回の登山体験は、良い経験になったと思います。
これでまたぬくぬくとした日常生活に慣れきってしまわずに、たまには理不尽ではなく、よい刺激の我慢、忍耐、辛抱を進んでするように心がけましょう。
それから、沢を渡る時や岩に登るときに自然に手を差し出し合っている姿をみてうれしく思いました。これもぜひ日常生活で実践してほしいと思います。
何が逞しくなって、何が成長したかを数値で示すことができませんが、着実にその種は植え付けられているはずです。後はそれを子供達自身が実となるように育て、最終的にその実が成果として収穫できるまでに至ればよいと思います。
今年作ったバディのTシャツのバックプリントにはそんなメッセージが書かれています。
それでは残り少ない夏休みを楽しんで下さい。
えんどうまめ