マキも割り箸も新聞紙もたっぷり用意して、なんと贅沢な時間だろう。
オキ火をつくって、最後にマシュマロを焼いて食べるまで、自分だけの力で焚き火をすることが今日の課題。
まず、自分だけの焚き火の場所を決め、地面を少し堀りその周りに石や木を並べてかまどをつくる。
割り箸と太めのまきとその中間のまきを準備し、かまどの中にまきをセットする。
新聞紙が勢いよく燃え、その勢いがあるうちに割り箸が燃え、なーんだ簡単だと油断をすると、火はみるみる消えてゆく。
なんどやっても火は消える。
そんな中、ヒロトとヒナタ、ミノルの最年少チームが誰よりも火をつけた。
上級生たちは悔しかったはずだ。
焦れば焦るほど火はうまくつかない。
シメシメ・・・通常は(時間がなかったり、しびれを切らすと)ここで、大人が“どれどれこうやってやるんだよ”と手を出してしまう。
でも今日は、時間も材料もたっぷりある。
何度失敗しても、手は出さないし、口も最低限しか出さない。
子供たちは、しかたなく焚き火と向き合う。
ちょうど良い太さの木を選んだり、木を並び替えたり、空気のとおり道を考えたり、たくさん新聞紙と割り箸を入れたり・・・だんだん大胆になっていく。
いいぞ。
みんなの焚き火がオキ火になった頃、ちょうどあたりも真っ暗になっていた。自分で作った焚き火で食べるマシュマロの味は格別である。
その夜、忘れないうちに、焚き火のコツをノートに書かせた。
夕食後、温泉に入った後、薪ストーブでピザを焼いた。夕食を食べて間もないのに、みんなものすごい勢いでピザに群がった。
次の日は、みんなが大好きな上野原高原に続くブナの森へと出かけた。
紅葉には少し早かったが、キレイで気持ちいい。
日本の環境問題を考えるとき、今後将来益々里山の存在が重要になると思われるが、その里山を理解している若者や子供たちがどれくらいいるだろうか。
理解するとは、見たり、聞いたりするだけではダメで、見て、聞いて、実際にやってみてはじめて“わかる”ものである。
だから、今のうちに子供たちを森につれていくことは、彼らが里山や自然を理解するのに大切なことである。特にブナやナラの落葉広葉樹の森だ。そこには豊かな生態系があり、色んな動植物が共生する痕跡を見ることができる。
この日も子供たちはたくさんの動物の“うんち”を見つけた。“うんち”は生態系の始まりだ。
キノコ採りのおじいさんが鳴らす鈴の音が遠くから聞こえれば、この森の中に本当にクマがいることを知り、子どもたちの創造力はどんどん膨らむ。
この森の土は柔らかい腐葉土だ。その上傾斜がちょうどよく、くねくね曲がっている。だから降る時は、子供なら誰でも走りたくなる道だ。みんな競って走り出した。
ここは自分が小学生の頃からよく来た場所だ。僕も小さい頃はこの道よく駆け下りた。こんなに自分は足が速いのかと勘違いするほどスピードが出る。まるでエスカレーターにでも乗っているかのように、全く息も上がらずに気持ちよく走れる。そのおかげで、山に対する自信や走りの自信がついたのかもしれない。
今、その同じ姿を目の前の子供達に見ることができるのは、感慨深い。
いつまでもこうした森が残っていてほしいし、いつでも子供たちを連れて行きたい。