やってよかった、来てよかった。念願だった宮崎サーフトリップ&クライミングで、新しい自然の世界を知ることができた。
大分空港に着くなり、千葉ちゃんと小野ちゃんがレンタカーを手配していてくれてすぐに乗車して、下阿蘇ビーチへ向かった。 オートキャンプ場は全て満室で唯一空いていた常設テントに潜り込んだ。翌朝朝食を済ますと、青島に向かった。青島では、渚の交番センター長の藤田さ んが便宜を図ってくれたおかげで、充実した海遊びと快適なキャンプが実現した。
台風20号が過ぎ去った直後で、青島の波はすね程度だったが、海水温気温とも高く、何時間でも海に入っていられた。ビッグサップの上ではプロレス大会が盛り上がっていた。時間を気にせず海に入っていると、海のリズムを体で感じることができる。そのリズムに同調してサーフィンをしていると、本来の自分のリズムを取り戻した気がしてくるから不思議だ。次の日も出発ぎりぎりまで、30分間のモーニングセッションを楽しんだ。
所変わって、再び延岡方面に100kmほど車を走らせた。サーフボードを積んだ車が山道を走って行く。これをやりたかったんだよね。
目的地に近づくと、そびえ立つ岩肌が見えてきた。まさかあそこ登らないよね。よくよく見ると、中腹に人の姿が見えた。「えっ!無理無理無理無理、絶対無理。俺登らない」。が子供達の第一声だった。
これが比叡山か。そんなビビりまくる我々をよそに、雅さんが無理なく我々を岩に馴染ませてくれた。
その夜は鹿川キャンプ場でキャンプをした。鹿 川キャンプ場は何と焚き火がOKで、スペースも広く、テントも張りやすく、 薪もいくらでも手に入った。こんな素敵なオートキャンプ場があるなんて信じられない。全国のオートキャンプ場がこんなだったら、どれだけ素晴らしいか、ぜひモデルにしてほしいと思った。夜は焚き火を囲んで、地鶏と赤黒島で、雅さんの貴重な話に聞きいった。
雅さんは7000メートルを超えたデスゾーンの世界に自分を見つけ、そんな宇宙を感じる世界に魅せられ、はまった特別な人。7000mを超える と寝ていても体力が回復しないそうで、地上のおよそ3分の1の空気の世界は、思考もうまく働かず余計なことが考えられないとてもシンプルな世界で、そこでは極限まで感覚が研ぎ澄まされ、その感覚が生死を分けるのだそうだ。そんな世界を生き抜いた雅さんは今、クライミングとか山登りとかいうジャンルを超えた自然の世界に身を置き、自然と人間をつなぐいろんなメッセージを発信してくれている。そんな人と一緒にいること、そして比叡山やほこ岳という素晴らしい場所と出会えたこと、そこでクライミングできることを心から感謝したいと思った。
明け方から雨が降っていたが、不思議と憂鬱な気分ではなかった。素晴らしい世界との出会いに感謝する気持がまさり、期待と覚悟で気持ちが穏やかだった。キャンプ場で霧の中から姿を覗かせたほこ岳の姿を見ても、まだあそこに登るという実感は湧かなかった。森を抜けて、目の前に広大な岩の壁を目にした時、あまりの光景に「ワオー」「イエーイ」とみんなテンションが上がった。
花崗岩で持つところがほとんどなかったが、傾斜が緩く、足先のフリクション(摩擦)が効くので、上手くこのフリクションを使うのが、このルートを登るコツとのこと。実際にやってみると、軽くて小さい子ほどサクサクと登った。それを見ていた高学年や大人達が刺激されたが、彼らほど上手く行かず、大人ほど手こずった。一度登った子供達は、味をしめ、最後は飛び跳ねるように登り降りを楽しんでいた。いつのまにか、みんな岩に馴染んでいた。
今回はたったの10分のワンピッチだったが、十分に満足した。何よりも、この世界に出会えたこと、この花崗岩に挨拶ができただけで、嬉しかった。テレビの連続ドラマのように、一気に登ってしまうのはもったいない、1年にワンピッチずつ伸ばしていき10年かけて登頂するのもいいと思った。
今回、これだけ宮崎を満喫できたのは、その準備がすでにみんなに出来ていたからだと思う。世の中には、まだまだ、こんなにも素晴らしい世界があり、我々は今、その入口に立っている。バディに終わりはない。ジャンルを超えた本物の自然の世界があることを知れたことが、回の一番大きな収穫だ。
こんな世界があることを教えてくれ、私たちを無理なく岩に馴染ませてくれた雅さんに、そして現地を車で走り回って全ての段取りを手配してくれた千葉ちゃんと小野ちゃん、最後の最後まで子供達の世話を焼いてくれたマリオに心から感謝します。
今東京オリンピックにサーフィンとロッククライミングが採用されようとしているが、これも何か縁なのだろうか。これからサーフィンやクライミングがスポーツ競技として益々注目されていくかもしれない。でも僕は、細い山道をサーフボードを満載した車が走る姿を忘れないし、キャンプをしながら海と山で、みんなでいい時間を過ごしたことを忘れない。そこに僕らの原点がある。ジャンルを超えた自然の世界でいい時間を過す、これまでもこれからもバディはこのスタンスで行きたい。