今回の参加者は小学生が20人、中学生が2人。小学生はほとんどが3年生で、1・2年生が5人、6年生が1人だった。
小学生の目玉は、「二・三・四体験」。2時に起きて、3時に朝食、4時出発という登山スタイルを体験すること。目指すは武尊山の横断。コースは宝台樹スキー場から登って坤六峠の手前に降りるコース。
登山ガイドには、「武尊山荘から名倉ノオキまで2時間10分」「名倉ノオキから手小屋沢小屋まで30分、手小屋沢避難小屋から山頂まで2時間と書かれている。単純計算すればあわせて4時間40分、4時に出発できれば山頂到着は8時40分、下りは少しスピードもあがり、余裕をみて10時間あれば全行程が終わると読んだ。
ところが・・・実際にかかった時間は13時間、歩いた総距離13kmだった。
実際の行程
2:50 起床
3:00 朝食
4:00 小屋出発
4:30 登山口出発
6:00 名倉ノオキ手前(標高1400m)
7:10 名倉ノオキ(標高1700m)
8:00 手小屋沢避難小屋分岐点(1680m)
9:00 最初の鎖場(1900m)
11:30 山頂
12:10 出発
14:30 鎖場出発
15:00 避難小屋上尾根(セビオス岳・1870m)
15:30 武尊避難小屋出発
16:50 武尊田代
17:15 駐車場着
登りは、名倉ノオキまで岩場が濡れていて足場が悪かった。鎖場も時間がかかった。この時点で既に予定より2時間遅れていたが、子供たちが元気だったこと、天候が安定していたこと、降りは登りよりもスピードアップできる、その先何かあってもバックアップ(①来た道を下山する、②手小屋沢避難小屋でビバークする、③武尊避難小屋でビバークする、④ゴールまで行く)がある、という理由から続行を決めた。本音は今来た道を戻るといったらみんな嫌がるだろうなあと思ったのが正直な気持ちだった。それくらい足場が悪かった。
鎖場を過ぎてから頂上までは歩きやすく、景色もよく、子供たちの元気も復活した。遅れた時間を取り戻そうと頂上での休憩も短めにして、先を急いだが、下りの鎖場の岩が滑り、時間を短縮するどころか、さらに時間がかかった。
だんだんタイムリミットが近づいてくる。ペースを上げたかったが、鎖場から武尊避難小屋までの足場が悪くなかなか前に進まない。時計とにらめっこしながら、3時を過ぎた頃から避難小屋でのビバークを本気で考え始めた。ビバークは可能だが、水が足りなかったのでキャンプ場まで誰かが取りにいかなければ・・・とか考えた。
子供達の疲労もピークだった。3時30分、やっと避難小屋に到着。ここからゴールまでは約3km、道も歩きやすく高低差もないので、頑張れば1~2時間で行ける。思い切って続行を決めた。子供たちに状況を説明して、はじめて「ガンバレ」という言葉を使って励ました。
今回、子供たちに山登りは頑張るなと教えた。頑張って無理をしたら最後まで持たない、エネルギーを温存しながら歩くようにと。子供の体力がどこまで持つか不安で仕方なかった。結果、子供の体力は無限大だった。但し、足場が悪いことと急斜面は別。時間や距離には耐えられても、足場の悪さと急斜面は子供に向かないことを再確認した。
最後の力を振り絞ってゴールに到着。疲労感と安心感と達成感が混同したが、冷たい沢の水で全てが回復した。13時間、13km無事全員が怪我もなく下山できたことに肩をなでおろした。
我々は記録を求めていたわけではなく達成感と自信をつけさせたかったのだが、13時間は低学年の行動時間の限度を完全に超えている。
”二三四”の体験は良かったと思う。登山の行動時間に関しては、今後低学年は10時間以内、高学年は12時間以内、足場の悪いコースは選ばないことを徹底したい。最後まで”ガンバらない”登山を心がけたい。
全体を通して、今回良かったと思うことが2つある。
一つは、子供達が荷物整理をできるようになったこと。以前はテントを撤収するギリギリまでテントの中は荷物でグチャグチャだったが、今回は朝起きると自分の荷物を全部バックパックの中に全部しまいこみ、テントの中がスッキリ! どうしてできるようになったかは不明だが、どのテントも荷物が整理されてスッキリしていたのに驚いた。パッキングの仕方がまだ甘いが、大きな進歩で褒めてあげたい。
もう一つは、誰かが苦しんでいるときやツライ思いをしている時に、「○○頑張れえ~」「○○大丈夫?」と励ましの言葉が自然に出るようになったこと。4月のオリエンテーションの時に話した「天使の言葉」と「NGワード」のことを覚えていたのか・・・登山中はみんな苦しい。こうした実感が、相手の苦しさや辛さをリアルに感じることができるのだろう。また活動中、色んな場面でお互いの得手不得手を知る。相手を励ます場面がたくさんあるから、何も考えずに自然にそういう言葉が出てくるのだと思う。これはとても嬉しいことで、バディ全体がそういう空気に包まれて欲しいと思う。
加えて言えば、料理や水汲み、テント設営や片付け、みんな何でもよく手伝う。だからこそ楽しいキャンプが実現していることを言葉で説明するのではなく、実感してくれているとうれしい。
最後に、サマーキャンプのねらいを再確認しておこう。
1.生命維持のために必要な「食べること」「寝ること」「出す(排便)こと」を、どんな環境でも自分一人でできるようになること。
2.さまざまなアウトドア・アクティビティを高いチャレンジレベルで楽しみ、喜びを享受できるように、自然や身体に関する感覚を鍛え、技術的、体力的な身体的コンディニングを整えていくことの重要性。
3.仲間を大切にするためにコミュニケーションを鍛えること。
一回の経験でこうした力を形成することは難しいが、自分の力で、汗をかいて実感しながら、失敗は試行錯誤を繰り返し、何度も何度も反復して挑戦する機会を自らに課していくことで、自然と向き合う姿勢や態度が形成されていくと考えている。
だからバディでは、大人があれこれ言わないし、手も出さない。その代わり危険がないかを監視し、時間が許す限り最後まで見守るし、そして何度でも繰り返しチャレンジできるようにチャンスをたくさん用意しているんだよ!
今は社員教育の一環で厳しい登山体験が人気という。大人になってから辛い思いをしながら“2泊3日”で会社生活の厳しさを教わるんじゃなくて、みんなは、同じことを今から楽しみながらステップバイステップで力をつけていく。アウトドアの活動は全てに“楽しい要素”があるんだから、楽しまなきゃ損だし、楽しくなきゃそんなの嘘だよ!
みんなが2時に起きて13時間山歩きをしたこと、今回のキャンプで経験したことは、絶対に消えない。これから生きていくのに大きな力になるはずです。その力をもっともっと積み重ねていこう!