山登りのような達成感はないかもしれないが、別の意味で完全燃焼できた。
備瀬のプライベートビーチは自然のリズムが流れ、我々の生活もそのリズム同調した。一日中遊び尽してビーチに戻り、真赤な夕日が西の空から消えてなくなると、今度は太陽のような丸い大きな月が東の空に姿を見せる。ちょうどその頃我々のお腹は満たされ、静かな波の音が眠気を誘う。潮周りは大潮で、朝夕にテントぎりぎりまで海が接近したかと思うと、昼と夜中は100m以上も遠いところまで海が離れる。こんなに間際で潮汐を体で感じる経験もなかなかない。これは月と太陽の引力によって地球の表面を覆う薄い幕のような海が引っ張られることによって海が太い部分と細い部分ができ、そこを地球が24時間かけて自転する時に通過するから6時間毎に海の位置が変わる、まさに宇宙規模の力による海の動きだ。
通常のキャンプでは、3日もするとストレスが溜まり早く帰りたくなるが、ここでの生活はこの自然のリズムと同調した生活リズムがなんとも心地よく、心地よいだけでなく、どんどん元気になっていく。昼間遊びつくすからお腹が減る、お中が減るからよく食べる、おなかいっぱい食べると眠くなり、早く寝る、早く寝るから睡眠時間もたっぷりとれ、朝も早く起きる、朝起きるとうんちがしたくなる。これこそ快食、快眠、快便の理想的な生活だ。普段の生活環境が変わっても、この食べる・寝る・出すができると子供達は元気で、回復も早い。これぞアウトドアの生きる力だが、こんな当たり前のことができないのが現代の子供のライフスタイルだ。
このライフスタイルを実現する原動力となるが、全力で遊び尽せる環境だ。バディのプログラムをデザインする時に一番大事にしていることは完全燃焼である。不完全燃焼は満足度を下げる。完全燃焼するには、子どもたちが今やりたがっていること、大好きなことをできればたくさん、状況によっては短時間でもやらせてあげることであり、大人の都合でやらせないことを極力少なくすることが肝要だと考えている。もっと言えば、できるだけ自由度を高くして、子どもたちの心を完全に開放してあげることができれば一番いい。その意味で今回のキャンプは十分に完全燃焼できたと言え、そのバロメーターは快食・快眠・快便である。
1日目と5日目は移動、2日は目午前中サザエ取り、午後スノーケリング、3日目は1日中サバニ、4日目は最北端に車で移動し、その先で見つけた川で存分に遊び、夕方にちゅら海水族館、その後ビーチに戻ってきてから日が暮れるまで目の前の海で気が済むまで遊んだ。
5日間を通して、陸上にいる時間と海にいる時間を比較したらどちらが長いかわからないほど水に浸かっていた。
そんな中でも、今回は改めてサバニの魅力を実感した。サバニはもともとサメの漁をするために使われていたらしい。また航海船としてのクオリティが高く、海漕のみなさんは、昨年宮崎から沖縄まで230kmを1カ月かけて航海したとのこと。その親分でもある森さんは、50~60kmはもうそんなに特別なことではない、そして外洋は安全で、最も危険なのは島周りであることを教えてくれた。
50~60kmと言えば、ちょうど江ノ島から大島までの距離がそうで、兼ねてから、江ノ島―大島間を何かで航海したいという夢をずっと持っていた。今回はこの夢が実現に向けて一歩進んだ気がした。
そのためには、10時間同じペースで漕ぎ続けられる体力とウィンドサーフィンでのセーリングトレーニングが必要だと森さんは言う。
僕にとっては実現できるかできないかはあまり問題ではなく、今その目標が見つかったことが何よりも重要だった。
これで子どもたちの朝練のメニューが決まった。5時30分から6時まではランニング、6時00分から6時30分までスイミング、6時30分から7時までパドリング、7時から7時30分まで、波があればサーフィン、なければ水中でのフットワーク(巻足、出足、ヘッドアップクロール等)と潜水(息こらえ)、これで将来江ノ島から大島まで渡れる能力を身につけていくことが朝錬のコンセプトだ。
そしてバディの海のプログラムの柱として①サーフィング、②パドリング、③スイミング、④セーリング、⑤ダイビング(スノーケリング)の5つを、スキルをフィジカル面で強化していくことで、どんな状況でも海をとことん遊べる力を身につけることを考えた。
今回サップでリーフの沖に出てスノーケリングをすることをテストしてみた。大人でも楽しい新たな遊びを開発した。波があれば波乗りを楽しみ、海がきれいならスノーケリングを楽しみ、いつか航海できる体力と技術を身につけておき、いざとなったら潜って魚をつける力があればどんな海でもどんな状況でも海を完全燃焼で遊び尽くせる。そんな夢への扉が開いたのも今回のキャンプの収穫だった。
海や地球のリズムを体で感じ、その中で生活する快適さを知った子どもたちの将来が楽しみである。